2011年(H23年)3月11日(PM2:46)、岩手県三陸沖(牡鹿半島東南東約130km)を震源とするマグニチュード9.0の東日本大震災(最大深度7)発生し、それに伴って発生した巨大波により、東北を中心とする太平洋沿岸に壊滅的な被害をもたらしました。また、この地震及び巨大津波の影響(福島第一原発には14~15mの津波)により、東京電力福島第一原子力発電所の事故が発生し、原子炉内の一部の放射性物質が施設外へ放出され、風によって広範囲に運ばれることにより、福島県を中心に近隣県の環境(土壌、森林、居住地など)を汚染しました(図1航空機モニタリングによる空間線量率の分布(H23年4月29日に換算))。

 外部へ放出された放射性物質は、風によって運搬された後、雨などにより土壌や森林などに沈着することで汚染しています。このように、放射性物質がその移動過程で雨などの水分と接触することによって地上に落下し、地表面や樹木などに沈着することを湿性沈着(降雨沈着(wet depsition))と言い、水分が伴わず乾いた状態で沈着することを乾性沈着(乾燥沈着(dry deposition))と言います。放射性物質は時間と共に減衰する特徴があり、元の半分の量になるまでに要する時間を半減期(half-life)と言いますが、時間の経過に伴い減少することと並行して、地表面に沈着した放射性物質は地中や水平方向に移動することが考えられます。これらは、地形や土壌の種類などの影響を受けることが知られていますが、移動に伴って再分布し、更にその移動に伴って空間線量率(地表面から1mの高さの線量率と定義)の再分布も発生する懸念があります。事故以降の調査から、空間線量率(air dose rate)を支配しているのは、極初期を除き、放射性セシウム(Cs-134, Cs-137)であることが分かっています。従って、放射性セシウムの移動挙動を理解することが重要です。

 当研究室では、環境動態の中でも放射性セシウムの地中方向の移動や移動に伴う土壌の遮蔽の影響、更には、その遮蔽の影響や除染の影響を考慮した空間線量率の解析手法に関する研究や解析ツールの開発の他、汚染した原子力施設内を想定し、コンクリート中の放射性セシウムの移動と遮蔽の効果や汚染したコンクリート室内での空間的な線量率分布、Te-129mから生成されるI-129の最大量の評価手法などに関する研究を行っています。

図1 航空機モニタリングによる空間線量率の分布(H23年4月29日に換算)
(文部科学省:文部科学省及び米国エネルギー省航空機による航空機モニタリングの測定結果について(H23年5月6日)より一部編集