原子力発電所などの原子力関連施設、病院などの医療施設、大学や研究所などの放射性同位元素(RI)を使用する研究施設などからは放射性廃棄物(放射性同位元素や核燃料物質などによって汚染したものの内、管理区域から発生する廃棄物)が発生し、これらを安全に処分する必要があります。現在、放射性廃棄物は一部を除き、全て人工バリアなどの工学障壁材を伴って地中に埋設処分されます。また、放射性廃棄物処分の問題は、先進国は元より、上記施設や設備を有している国共通の課題であることから、国際的な問題として、IAEAやOECD/NEAなどとも連携した国際共同研究や情報交換などが展開されています。

 当研究室では、放射性廃棄物処分の中でも特に高レベル放射性廃棄物(high-level radioactive waste)の地層処分における人工バリアの特性や長期挙動などの工学技術の信頼性向上に関する研究や、廃棄体(ガラス固化体)から浸出漏洩した後の放射性物質の人工バリアや地中での移動などの安全評価技術の高度化について研究しています。

高レベル放射性廃棄物の地層処分の概要

 原子力発電所からは使用済燃料が発生します。これらを再処理工場において有用なウラン(U)とプルトニウム(Pu)を分離した後には核分裂生成物(FP:Fission Product)を多く含む放射能レベルの高い残留廃液が発生します。これは使用済燃料全体の3~5%程度と少ないものの、極めて放射能濃度が高いという特徴があります。これを高レベル放射性廃棄物と言い、ガラス材料(ホウケイ酸ガラス)と共にメルター中で溶融され、キャニスター(canister)と呼ばれる厚さ5mm程度のステンレス製容器中に流し込まれて冷却され固められます。この固化体をガラス固化体(vitrified waste)と言います。

 ガラス固化体は、地上施設(貯蔵施設)で30~50年程度、放射能減衰と冷却のための貯蔵を行った後、地下300m以深の地層中(300mより深い地層中)に坑道を掘削し、廃棄物の周囲を人工バリアで覆うことで埋設処分されます。この処分方法を地層処分(geological disposal)と言います(図1高レベル放射性廃棄物の処理処分の概要)。

図1 高レベル放射性廃棄物の処理処分の概要
(原子力機構・バックエンド研究開発部門HPより一部編集)

 地層処分において、ガラス固化体はオーバーパック(overpack)と呼ばれる金属容器に封入され、更にその外側には天然の粘土(ベントナイト(bentonite))と珪砂が混合され圧縮成型された緩衝材(buffer material)が配置されます。その外側は岩盤です。ガラス固化体から緩衝材までを人工バリア(engineered barrier)と言い、その外側の岩盤を天然バリア(natural barrier)と言います。また、ガラス固化体から岩盤までの一連のバリアシステムを多重バリアシステム(multi-barrier system)と言います(図2高レベル放射性廃棄物の地層処分の多重バリアシステム)。

図2 高レベル放射性廃棄物の地層処分の多重バリアシステム
(原子力機構・バックエンド研究開発部門HP
より一部編集)

 当研究室では、これら地層処分の多重バリアシステムの中でも、緩衝材の特性や長期挙動について様々な研究を展開しています。